nativeye/金沢にアーティスト坂野充学による分散型ホテル「ARTS & STAY Kanazawa」グランドオープン

さわひらき、岩井優ほか国内外アーティストによる現代アート作品を鑑賞しながら金沢暮らしが体験できる貸切宿

リリース発表日:2023年9月19日 10時00分

2023年9月23日に、アート✖️住空間をコンセプトにした貸切宿5棟からなる「ARTS & STAY Kanazawa」が、金沢・ひがし茶屋街近くにオープンいたします。

ARTS & STAY Kanazawa は、ひがし茶屋街近くの昔ながらの風景が残る立地で、1日1組限定完全プライベートに過ごす宿5棟からなる分散型ホテルです。アーティスト・坂野充学により2016年にプロジェクトを開始し、コロナによる延期もあり、一部施設のみのプレオープンとなっていましたが、2023年9月23日に5棟同時にグランドオープンいたします。全10室の客室は、古都金沢の面影が残るひがし茶屋街近く「森山」にある5棟の建物に点在。まるで時が止まったかのような路地空間で、静寂の夜を満喫しながらの滞在ができます。築100年を超える町家を中心とした建物に和洋を織り交ぜた内装を施すとともに、現代アーティストによるコミッションワークを取り入れ、「伝統と現代」、「住空間とアート」が調和する宿です。全てが一棟貸しのため、ご家族での旅行や子ども連れでも安心して利用できます。

 ARTS & STAY Kanazawaでは、様々なアーティスト・クリエイターとのコラボレーションを継続的に行なっています。施設の1つであるKASUKAでは、9月23日(土)から開催される奥能登芸術祭出品作家であり、金沢出身のアーティストさわひらきによるコミッションワーク「静かな場所」も展示されています。芸術の秋に金沢・能登へのアートの旅を計画しているアートファンにもおすすめです。

  • 「ARTS & STAY Kanazawa」のコンセプト

滞在制作した映画「N.P」の撮影監督・足利広が滞在制作時に撮影した近隣散策をする家族の様子。滞在制作した映画「N.P」の撮影監督・足利広が滞在制作時に撮影した近隣散策をする家族の様子。

旅先で観光ガイドに載っているスポットから離れて路地裏を散歩すると、今まで遭遇したことのない景色に出くわすことがある。手作りの小さな庭や、軒先に置かれた自慢の盆栽。路地には「まちの素面」が映し出されている。非日常を求めて旅に出る時、私たちは普段よりも心をひらいた状態になる。発見の種である住空間とアートを存分に楽しみ、心をひらく時間を過ごしてほしい。静寂の夜に耽り一日の旅の疲れさえも心地よく感じ、まちとともに目覚める朝は路地裏散歩を楽しんでほしい。そこでは、この路地で暮らす隣人らの息遣いを感じることができる。

台湾人写真家の黃紀滕がARTS & STAY滞在中に撮影した写真作品。台湾人写真家の黃紀滕がARTS & STAY滞在中に撮影した写真作品。

普段は気がつかないような風景のひとこまに目が釘付けになったり、知らない人とも仲良くなったりと、自分の知らなかった自分を、旅先で発見したことがある人は多いはず。そんな瞬間をこの路地裏で提供したい。そして世界中からの旅人がこの路地に滞在し、アートのある住空間に泊まり、作品を鑑賞し楽しむ。その循環により建物、路地空間の景色に人の手が加わり続け、まちが新陳代謝していく。この流れを自然に実現するため、地域のリサーチから、空間設計、町家改修、ロゴデザインから展示する作品制作まで全ての工程に、地元の職人たち、世界各国から招待したアーティスト、デザイナー、建築家らの滞在制作が関わっています。

【左】アーティストの岩井優による滞在制作風景。 【右】展示されている平面作品(HISORI客室内)【左】アーティストの岩井優による滞在制作風景。 【右】展示されている平面作品(HISORI客室内)

旅人が宿泊できる一棟貸しの宿は滞在制作の成果物の集合体です。かつて職人が住みながらつくった記憶の残る小さな路地。近所を散歩するように路地裏から世界に、世界から路地裏に表現が往来する未来がはじまっています。

  • 古都金沢だからこそ生まれた、ARTS & STAY

多くの職人たちが暮らし、職人町として栄えた古都金沢ひがし茶屋街の近くにある「森山」。かつては染色、加賀友禅、大工、表具、畳、木箱づくり、建具、左官、金箔といった、まちに根付いた伝統産業でありつつも規模的には小さな「諸職」と呼ばれる専門職の人々が、住居兼工房として暮らしてきました。工房がつらなり風情あるこの光景も、ここで暮らす人にとっては日常であり生活圏です。しかし時代の変化の波とともに、金箔打の騒音問題で、昭和に職人たちが金沢北部へと去り、業種自体が姿を消えたこともあり、いつしか職人たちはこのまちから消えていきました。

【左】今でも金箔関連の内職をする近隣住民。 【右】 滞在制作中に台湾人写真家の黃紀滕が撮り下ろした写真作品【左】今でも金箔関連の内職をする近隣住民。 【右】 滞在制作中に台湾人写真家の黃紀滕が撮り下ろした写真作品

さらには人口減少・住民の高齢化もあり、空き家が増えたのがいまのARTS & STAYの舞台となる森山の小さな路地です。ほかの地域同様に、時代とともに役目を終えた建物は今もそこに在り、次の時代に向けての新陳代謝を待ち望んでいるのに、現実にはなにも起こらない日々が続いてきました。ARTS & STAYはそんな路地裏に、ささやかな風を起こそうと思っています。暮らす人たちに漣を起こすような風ではなく、そよそよと気持ちのいい風が通り抜ける路地の風景をつくる。それがARTS & STAYの取り組むプロジェクトです。

施設概要

施設名

収容人数

客室数

展示作家名

KASUKA(かすか )

4名

1室

さわひらき

YADOSU(やどす)

7名

3室

ロイデン・ラヴィノウィッチ、
ビル・ウッドロー、山中レオ

HISORI(ひそり)

12名

1室

岩井優

MITSUME(みつめ)

11名

2室

南出直之、NASEPOP、SASAKIほか

ROJINE(ろじね)

8名

3室

坂野充学

KASUKA 

【左】貸切宿KASUKAのリビングスペース 【右】2 Fの客室ではアート作品を鑑賞しながら眠りにつくことができる。【左】貸切宿KASUKAのリビングスペース 【右】2 Fの客室ではアート作品を鑑賞しながら眠りにつくことができる。

山中レオによるオリジナル格子のKASUKA外観山中レオによるオリジナル格子のKASUKA外観

 <コミッションワーク紹介>

Photo:Hiraki SawaPhoto:Hiraki Sawa

作品名:“a quiet place” 静かな場所

作家名:さわひらき

<解説>
さわは建物が位置する路地がかつて金箔打人たちが多く住んだ大衆目(だいじゅめ)と呼ばれる免税特区であったという場の持つ記憶を紐解きます。かつては隣接する家から、金箔打の職人が金箱を打つ音がこえていただろうというノスタルジックな空想を、空間とアートの関係性を読み解きながら可視化するという着想から生み出されたのがモビール型の造形。時には、窓からの木漏れ日によって壁面に陰影を映し出され、時には空気の揺らぎを受け微動と衝突を織り返し、微かな音が空間にこだまします。1階から見上げて観賞することができるよう天井を吹き抜け構造に意匠設計するなど、建築・アートの領域を横断し、住空間ならではの展示手法、多様な素材、光や空気の流れ、就寝から目覚めまでの時間軸を読み解いた作品です。かつてこの略地を賑やかした人たちのものづくりの記憶過去を想起させる的な空間が拡がります。展示作品タイトルの “a quiet place”は現在は職人もいなくなり、静まりかえった空間で、かつての空気感をアート作品を通して楽しむ場所として、この宿を「静かな場所」として捉えたことから来ています。作品は吹き抜け部のモビール作品、ベッドルームの月の地図からなり、1階リビングには「drawing for a quiet place」(静かな場所のための素描)も展示されています。

<プロフィール>
さわひらき

1977年、石川県生まれ。2003年ロンドン大学スレード校美術学部彫刻科修士課程修了。金沢およびロンドンを拠点に活動。 心象風景や記憶の中にある感覚といった実体のない領域を、映像・立体・平面などを巧みに操り構成したビデオインスタレーションで表現する。国内外の多数の美術館に作品が多数収蔵されており、国内では国立国際美術館/金沢21世紀美術館/東京都写真美術館/森美術館などで作品を見ることができる。

YADOSU 

【左】築100年の町家をリノベーションした貸切宿YADOSU。 【右】焼杉加工したハンドメイドのベッドフレーム【左】築100年の町家をリノベーションした貸切宿YADOSU。 【右】焼杉加工したハンドメイドのベッドフレーム

<コミッションワーク紹介>

山中レオによるオリジナル格子のYADOSU外観山中レオによるオリジナル格子のYADOSU外観

作家名:山中レオ

作品名:森山路地の格子

<解説>

山中はARTS & STAY Kanazawaが位置するひがし茶屋街付近の建物の多くが、出格子(道側にせり出した格子)を備えており、これが美しい景観を形成していることに興味を持ちました。出格子にもいくつかの様式がありますが、金沢町家の特徴的なものが木虫籠(きむすこ)です。木虫籠はひがし茶屋街の建築文化における独自性のひとつと言えるもので、その名の通りまるで虫籠のような細かく規則的なスリットが特徴と言えます。この格子をよく見ると、一本ごとに台形の形状になっており、内側にむけて少しすぼんでいることがわかります。この工夫によって生まれる「外からは中が見えづらく中に外の光を取り込みやすい」といった効果を生かしつつ、現代解釈してオリジナル制作したのが「森山路地のための格子」です。YADOSUでは規則的に並列された格子はエントランス部のスライドドアにも延ばされ、建物を全て覆い隠しています。近くでこの格子をみると、角材が角度を付けてとりつけてあり、伝統的なこの地域特有の格子の機能を保ちながら、意匠を大胆にアップデートされており、伝統と現代をブレンドした空間を作るARTS & STAYエリアのコンセプトを象徴しています。また使用している角材全てには焼処理が施されており、耐久性を増しつつ、経年変化で現在はシルバーグレーの色合いに落ち着き、町に溶け込み、雨天時は赤みを帯びた表情を見せるなど、伝統的な手法ならではの変化が楽しめます。 更にKASUKAの格子では、同じ手法及び機能を板材で再表現しています。

HISORI

作家名:岩井優

作品名:ミネラルとウォーター

【左】貸切宿HISORIのリビングスペース 【右】3客室からなる広々とした町家。【左】貸切宿HISORIのリビングスペース 【右】3客室からなる広々とした町家。

<コミッションワーク紹介>

リビングスペースにはアーティスト岩井優によるコミッションワークが展示されている。リビングスペースにはアーティスト岩井優によるコミッションワークが展示されている。

<解説>

岩井優は清掃や浄化といった日々の営みから社会の仕組みや歴史にアプローチする作品を多く発表しています。岩井が金沢に滞在中関心を寄せたのは、鉱物と水の関係でした。金沢市内を流れる犀川の源流にかつてあった倉谷鉱山。100年以上前に閉じられた山の歴史や素材を手がかりとして、有益と有毒のあいだで私たちが揺れ動くことへと注意が向けられています。未だ作品は構想中ながらリサーチで得た素材の一部を展示し、金沢を旅する人にこれから始まる探検へと誘いかけています。

<プロフィール>
岩井優
1975年、京都府生まれ、東京を拠点に活動。洗浄や清掃という日常行為に着目し、その背後にある社会的・記号的意味を顕在化するような映像やインスタレーション、パフォーマンスなどを発表。2017年、リボーンアート・フェスティバル(宮城)、2018年、「定点なき視点」(横浜市民ギャラリー)、2020年、横浜トリエンナーレ等に出品。

MITSUME

東京のアートスペースMITSUMEの活動から生まれた貸切宿「HISORI」東京のアートスペースMITSUMEの活動から生まれた貸切宿「HISORI」

【左】NASEPOP「Tokyo Sunlight」(2015)【右】南出直之「陰陽阿吽〇一」(2020)【左】NASEPOP「Tokyo Sunlight」(2015)【右】南出直之「陰陽阿吽〇一」(2020)

ROJINE

【左】築100年の町家をリノベーションした貸切宿ROJINE。 【右】広々とした客室はファミリーでの利用にも最適。【左】築100年の町家をリノベーションした貸切宿ROJINE。 【右】広々とした客室はファミリーでの利用にも最適。

アーティスト・坂野充学による立体作品「Nightwalkers delight」が展示されている。(ROJINE客室)アーティスト・坂野充学による立体作品「Nightwalkers delight」が展示されている。(ROJINE客室)

  • 代表メッセージ  「ARTS & STAYの軌跡」

金沢の中心市街地から車で30分ほどの山間部にある鶴来(白山市)に生まれ育った私は、物心のついたころから古い町家が連なる風景の中で生活していました。まちの一大イベントである秋のほうらい祭りが近づけば、近所の面々が集まり祭支度をするのが原風景です。1992年、鶴来の町家・蔵を展示会場とした「鶴来現代美術祭」が実家の周りで突如と開催されました。初めて目にするものたちが、昔から変わらないと思っていた小さなまちの景色を変えたのです。それが私と現代アートとの出会いです。

町家空間をつかって開催されていた鶴来現代美術祭の様子(写真:鶴来現代美術祭アーカイブ)町家空間をつかって開催されていた鶴来現代美術祭の様子(写真:鶴来現代美術祭アーカイブ)

その衝撃は若い私に大きな影響を与え、10代の終わりにミュンスター彫刻プロジェクトをみるためにドイツに足を運ぶなど、ストリートとアートが一体となるうねりを見て回ることとなりました。 そうしていくうちに、人の住む生活空間を舞台にした世界初の芸術祭とされる「シャンブル・ダミ展(1986年、ゲント市、ベルギー)」のキュレーターが、私のアート初体験である「鶴来現代美術祭」の仕掛け人、ヤン・フートであることを知り、時に埋もれたこの小さな事件を1人記録しはじめました。破棄されかけた資料や作品を収集・保存し、「鶴来現代美術祭アーカイブ」と名付け、2016年からは展覧会としても各地で巡回し、収集記録を紹介してきました。

90年代の芸術祭の記憶、鶴来現代美術祭アーカイブの活動を経て生まれたプロジェクトがアーツアンドステイ。 展示写真:【左】金沢21世紀美術館(2016)【右】みなとまちアートテーブル(2017・名古屋)90年代の芸術祭の記憶、鶴来現代美術祭アーカイブの活動を経て生まれたプロジェクトがアーツアンドステイ。 展示写真:【左】金沢21世紀美術館(2016)【右】みなとまちアートテーブル(2017・名古屋)

ARTS & STAY Kanazawaでは、鶴来現代美術祭アーカイブから、ロイデン・ラヴィノウィッチ、ビル・ウッドローによるドローイングや小作品を展示しています。これらは、 1994年にアーティストが鶴来滞在中に地元民のために製作した未公開作品です。

【左】 ビル・ウッドローによる作品「ハーフカット」 【右】ロイデン・ラヴィノウィッチによる作品「鶴来」【左】 ビル・ウッドローによる作品「ハーフカット」 【右】ロイデン・ラヴィノウィッチによる作品「鶴来」

人がつながり、ひとつのことを目指し、次の世代に継承していく「土着の祭」と「アートフェスティバル」、「日本ならではの町家や路地裏」と「美術館やギャラリー」。世界をまわり、似ているようで相反する二つのコトやバを行き来しながら「フェスティバル」でも「展示空間」でもない住空間、あるいは生活の延長線上にあるコトのような、バのような何かをつくろうと考えました。

住空間にアートがあり、プライベートな空間と時間がある状況。その発想から、宿の機能をもった路地裏空間をつくることになりました。現在進行形でつくり続けているARTS & STAYですが、日常の延長線上にアーティストと旅人が行き来し、流れのままに形を変えていきます。着地点をつくらないプロジェクトは、発見をもたらす場としてこれからも変化し続けるでしょう。

<プロフィール>

坂野充学

1977年石川県生まれ。イースト・ロンドン大学美術学部ファインアート科卒業。金沢および東京を拠点に活動。土地特有の慣習や風習・生活様式、住空間の記憶に潜む可能性を紐解き、映像や立体作品を制作。既存のモデルにはない独自の制作環境づくりとして展示・プロジェクト拠点づくりにも取り組む。2010年に芸術施設アーツ千代田 3331を共同設立、2014年にアートスペースMITSUME(清澄白河)、2023年「ARTS & STAY Kanazawa」をオープン。主な個展に2019年「WALK TO TALK」(金沢アートグミ)、2016年「可視化する呼吸」(金沢21世紀美術館)など。主な企画展に「鶴来現代美術祭アーカイブ」(金沢21世紀美術館)など。

< ARTS & STAY >
オフィシャルサイト:http://artsandstay.com/
Instagram:https://www.instagram.com/artsandstay/

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