【広島市現代美術館】特別展「ティンティン・ウリア:共通するものごと」

個人的な記憶は、いかに社会と接続するのか

 

このたび広島市現代美術館は、「ティンティン・ウリア:共通するものごと」を開催します。

ティンティン・ウリアの芸術的実践と研究に大きな影響を及ぼしてきたのは、民族的なマイノリティである中国系バリ人である自身の出自、さらには、1965-66年に起こったインドネシア大虐殺のときに行方不明となった祖父の存在です。幼少期から差別を受けてきた経験をもつウリアは、人々が作り出した境界と、その境界を維持するために人々が繰り広げる戦争に関心を抱き、多領域にわたるインスタレーションや映像作品を通して、こうした問題を伝えてきました。ウリアは、個人的な体験に立脚した芸術的実践を通して、私たちの身の回りにあるものごとが、美的要素を獲得することで、人々をつなぐ「共通するものごと」になり得ることに次第に気づくようになります。現在、こうした美的オブジェクトがいかに社会的・政治的変革に結びつくかを調査するプロジェクトを進めています。
日本での初個展となる本展では、比較的初期から現在に至る作品を紹介します。個々の記憶を含む個人的背景が、いかに集団的な行動や、他者との社会的繋がりへと変容し得るのか、という点に着目するウリアの芸術的試みの変遷を、作品を通して体験する機会となります。


開催概要

展覧会名|ティンティン・ウリア:共通するものごと

会期|2024年9月21日(土) — 2025年1月5日(日)

開館時間|10:00–17:00

※入場は閉館の30分前まで

会場|広島市現代美術館 展示室B-1
※11/4まで展覧会に関連したオープン・プログラムを展示室B-3で開催

休館日|月曜日(ただし9/23、10/14、11/4は開館)、9/24(火)、10/15(火)、11/5(火)、年末年始(12/27—2025/1/1)

観覧料|一般1,100円 (850円)、大学生800円 (600円)、高校生・65歳以上550円 (400円)、中学生以下無料
※( )内は前売り及び30名以上の団体料金

主催|広島市現代美術館

協力|BAIK ART、Milani Gallery

後援|広島県、広島市教育委員会、中国新聞社、朝日新聞広島総局、毎日新聞広島支局、読売新聞広島総局、中国放送、テレビ新広島、広島テレビ、広島ホームテレビ、 広島エフエム放送、尾道エフエム放送

【前売券】※販売は9月20日(金)まで
オンラインショップ「339」
チケットぴあ〈Pコード 687-042〉
※広島市現代美術館の受付でも販売しています


関連プログラム

レクチャー・パフォーマンス

歴史や記憶をテーマに、出品作家のティンティン・ウリアが、レクチャー・パフォーマンスを行います。

日時|9/22㊐ 11:00–12:00

場所|広島市現代美術館 展示室B-3

※観覧無料、申込不要

学芸員によるギャラリートーク

担当学芸員によるツアー形式の展示解説

日時|10/5㊏、12/8㊐ 15:00–16:00

場所|広島市現代美術館 展示室B-1

※要展覧会チケット、申込不要

アートナビ・ツアー

アートナビゲーターによるツアー形式の展示解説

日時|毎週㊏㊐㊗㊡ 11:45–12:15、14:45–15:15

場所|広島市現代美術館 展示室B-1

※要展覧会チケット、申込不要、イベント開催時のぞく

オープン・プログラム「ミーティングポイント:出会う、知る、交換する」

特別展「ティンティン・ウリア:共通するものごと」の開催に合わせて、「ミーティングポイント:出会う、知る、交換する」を実施します。ここではインドネシアに関する書籍を閲覧できるほか、ウリアが関与するプロジェクトを紹介。また、記憶の継承を考察する契機としてヒロシマ関連の映像も上映します。来場者が自由に学び、知り、考え、意見を交換し、自発的な行動へと繋がっていくような、ラーニング機能を備えた空間です。

期間|9/21㊏—11/4㊊㊡

会場|展示室B-3

※観覧無料

Make Your Own Passport, ongoing since 2014. Thingstigate Public Launch at Vetenksapsfestivalen/Gothenburg Science Festival 2023. Photo: Per Larsson

◯日本初個展!

2012年に当館で開催したグループ展「この素晴らしき世界:アジアの現代美術から見る世界の今」(アジアを出自とし世界で活躍する7名による、それぞれの「世界」の表象を紹介)では手作りのパスポートを用い、国境や国籍をテーマをするインスタレーションを展開。日本初個展となる今回の展示では、初期の作品から現在に至るまで、ウリアの芸術的試みの変遷をたどります。

◯アーティスト来広!レクチャー・パフォーマンス

Memory is Frail[記憶は脆弱]シリーズ(ドローイングによるインスタレーション)を軸に展開される、アーティストによるレクチャー・パフォーマンス。世界中で起こるさまざまな出来事の記録が、個々人による認識や記憶と、国家が承認した「公式の」歴史を通して、どのように構築されるのかを問います。今回のパフォーマンスでは広島にまつわる話も登場する予定。

◯\期間限定/ ラーニング・スペースを開設

展覧会に関連したオープン・プログラムとして「ミーティングポイント:出会う、知る、交換する」を開設します(9/21—11/4)。インドネシアの歴史や文化に関連する書籍や映像を自由に閲覧可能。また、ウリア個人のアーティスト活動だけでなく協働して行うリサーチやワークショップ、研究プロジェクトなどの活動の一部を展示を通して紹介。来場者は実際に参加型プロジェクトを体験することができます。


アーティストと作品について

ティンティン・ウリア Tintin Wulia

1972年、インドネシア、デンパサール生まれ。オーストラリア、イギリス、スウェーデンを拠点に活動。国際的に活躍する学際的なアーティストで、HDKヴァランド芸術デザインアカデミー(イェーテボリ大学、スウェーデン)の上級研究員。テキスト、映像、サウンド、絵画、ドローイング、ダンス、インスタレーション、パフォーマンス、公共介入などを通して、社会的、地政学的な国境を越えた複雑なパワー・ダイナミクス(権力の力学)をインターフェイスとして探求し、実践的かつ概念的にこれらのテーマに取り組んでいる。最近の個展に「ティンティン・ウリア:秘密」RMITギャラリー(メルボルン、2023)、「ティンティン・ウリア:開示」Baik Art(ジャカルタ、2023)がある。

  • (Re) Collection of Togetherness[一体感の「再」集結]

2007年以降、段階的に形を変えながら発表されてきた、手作りのパスポートを使用した作品。本作で使用される、地球上のあらゆる国の複製パスポートは、ウリアのコレクションとして増え続けます。世界の国境は絶えず変化し続けるため、集める行為に終わりはありません。また、パスポートの一部のページには、押しつぶされた蚊と血痕が表されています。所有さえできれば、国際移動を可能にするパスポートは同時に、自らが選ぶことのできない帰属の問題、種類(国籍)次第では、国境を越えられない可能性を孕むことを示唆します。

(Re)Collection of Togetherness—stage13, 2024, ongoing since 2007. Photo: Marisa Srijunpleang. Courtesy of the Jim Thompson Art Center for the exhibition Nomadic
  • Memory is Frail (and Truth Brittle ) [記憶は脆弱(そして真実は脆い)]

100枚以上のドローイングからなるインスタレーション。空間(地理における)と時間(歴史における)の表現が、ループする物語として仕立てられます。ここではウリアの個人的な記憶と、さまざまな視覚芸術(映画等)から引用された、他者による記録とが交差し、世界に対する私たちの理解がいかに視覚的に構築され、記憶を通して記録されるかを問います。また、往々にして断片化される記憶を通して、現実がどのように形成されるのかを検証する試みでもあります。

Memory is Frail (and Truth Brittle) [detail], 2019. Courtesy of the Artist
  • Liminal Death[境界上の死]

ウリアは「移動」のシンボルのひとつとして「蚊」を取り上げ、それはしばしば作品に登場します。本作は蚊の変態に注目した作品です。彼女が「境界上の死」と呼ぶのは、蚊の幼虫が水面で、蛹殻から羽化する瞬間に起こる死のこと。羽化中の状態でエタノールの中で保存されたこの蚊は、1965年にインドネシアで消息を絶ち、帰らぬ人となった、ウリアの祖父の存在と重ね合わされます。誰もが確信することのできない祖父の死は進行中であり、未完、つまり境界上の死を意味するのです。

Liminal Death, 2023. Courtesy of the Artist

同時期開催

コレクション展2024-Ⅱ ハイライト+リレーションズ [ゲストアーティスト:中西紗和]

広島市現代美術館のコレクション展では、コレクションの特質に親しんでいただくとともに、関連するテーマに沿った内容の展示を合わせて紹介します。第1室から第3室にかけては「ハイライト」として、それぞれの部屋に添えられたキーワード「作家とスタイル」「保存、残すこと」「広島/ヒロシマ」「《アーチ》のメンテナンス」を通してコレクションをご覧いただきます。第4室の「リレーションズ」では、コレクション展示の延長線上に位置づけられる企画を実施。本展では身の回りの生活用品や生物をモチーフに制作している彫刻家・中西紗和をゲストアーティストに迎え、ワックスや砂といった制作過程で使用される素材をとりいれた作品や、日用品をモチーフにした作品、身近な生物を独自の視点で捉えユーモアにあらわした作品など、中西の生活のなかで生まれた様々な表現をご紹介します。

開館当初の設置以来初!ヘンリー・ムーア《アーチ》のメンテナンス

当館の向かいには、ヘンリー・ムーアによる高さ約6mのブロンズ彫刻作品、《アーチ》(1963-69/1985-86鋳造)が立っています。この秋、本作のメンテナンスを実施し、その方法や様子について随時お伝えします。

ムーアの広場

広島市現代美術館について

広島市現代美術館は、全国で初めて現代美術に本格的に取り組む公立美術館として1989年5月3日にスタートしました。建物は、建築家・黒川紀章による設計で、市内を見渡す緑豊かな比治山公園に位置しています。自然の景観と調和しながら、美術館としての先駆性が表現されており、垂直軸に沿って下から順に自然石、タイル、アルミと変化する素材は、過去から未来への文明の発展や時間の流れを表し、設計者独自の「共生の思想」を体現しています。2023年3月18日、リニューアルオープン。

広島市現代美術館 Photo: Kenichi Hanada
広島市現代美術館

広島市現代美術館

〒732-0815 広島市南区比治山公園1-1
TEL: 082-264-1121 FAX: 082-264-1198

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