岩手鶯宿温泉の長栄館における旅館再生プロジェクトに三井住友ファイナンス&リース株式会社の子会社であるSMFLみらいパートナーズ株式会社が参画
旅行系WEBメディア「HOTTEL」に記事を書くトラベルライター”TAKA”です。旅についての疑問や噂について真相をつきとめわかりやすく解説します。
今回のテーマは、岩手県雫石町の老舗温泉旅館「長栄館」における旅館再生プロジェクトについてです。三井住友フィナンス&リース株式会社の戦略子会社であるSMFLみらいパートナーズ株式会社が参画したこのプロジェクトは、地方温泉旅館再生の新たなモデルケースとして注目を集めているのです。
結論:長栄館再生プロジェクトは成功への道筋が見えている
長栄館の旅館再生プロジェクトは、複数の有利な条件が揃っており、成功への道筋が十分に見えていると考えられます。その理由は以下の通りです。
立地とアクセスの優位性: 盛岡駅から車で約45分、盛岡ICから約30分という首都圏からのアクセスの良さ
温泉資源の圧倒的な優位性: 毎分1,000リットル以上という全国屈指の豊富な湯量を誇る源泉かけ流し100%の温泉
経験豊富な企業連合: 地方創生に特化したNBIホールディングスと、旅館再生の実績を持つSMFLみらいパートナーズによる協働体制
地域活性化への期待: 鶯宿温泉エリア全体の活性化を目指す包括的なアプローチ
プロジェクトの詳細と背景
長栄館の歴史と価値
長栄館は1952年に設立された東北エリア有数の老舗名門旅館で、鶯宿温泉の中核的な存在として長年愛され続けてきました。しかし、新型コロナウイルスの影響で売上が激減し、2024年2月に約28億7,400万円の負債を抱えて破産手続きを開始することになったのです。その後、同年6月に営業を停止し、従業員28人が解雇されるという厳しい状況に追い込まれました。
この長栄館が持つ最大の財産は、何といってもその温泉資源の豊富さです。毎分1,100リットルという岩手県内最大級の湧出量を誇り、無加水、無加温、無ろ過、無循環という正真正銘の源泉100%かけ流しを提供していました。pH8.3の弱アルカリ性単純硫化水素泉は、美肌効果が高く「小町の湯」として女性客から特に高い評価を受けていたのです。
鶯宿温泉の地域性と魅力
鶯宿温泉は開湯450年の歴史を持つ由緒ある温泉郷で、その名称は傷ついた鶯が温泉に浸して傷を治していたという伝説に由来しています。雫石町に位置し、約2キロメートルにわたって旅館・ホテルが立ち並ぶ温泉街の風情が楽しめる場所として知られています。
盛岡駅からバスで50分、車では盛岡ICから25分という立地は、東北地方の温泉地としては比較的アクセスが良好です。近隣には小岩井農場、雫石スキー場、スポーツ施設なども充実しており、温泉以外の観光資源にも恵まれた環境にあります。
参画企業の実力と実績
今回のプロジェクトに参画するSMFLみらいパートナーズ株式会社は、三井住友ファイナンス&リース株式会社の戦略子会社として、「パートナー支援型事業投資」を通じた地方創生事業に積極的に取り組んできた実績があります。
特に注目すべきは、同社が2025年6月から取り組んでいる北海道小樽市の旅館「小樽旅亭 蔵群」再生プロジェクトの成功事例です。建築家・中山眞琴氏の代表作として知られる蔵群を、温故知新、Blueforest Capital Partnersとの3社連携で運営開始し、2025年12月のリニューアルオープンを予定しています。このプロジェクトでは、「静謐な滞在体験」や「上質なホスピタリティ」で高い評価を受けた既存のブランド力を継承しつつ、さらなる向上を目指すアプローチを取っているのです。
一方、NBIホールディングスは「MACHIづくり共創会社」として地方創生及び地域活性化に寄与することを目標に掲げており、2027年3月期までに全国のホテル・旅館等へ200億円の投資を予定している本格的な地方創生投資会社です。
口コミと評判から見る長栄館の真価
温泉の質に対する高い評価
営業休止前の長栄館に関する口コミを調査すると、温泉の質については非常に高い評価を得ていたことがわかります。特に注目すべきは、多くの利用者が源泉100%かけ流しの温泉の素晴らしさを絶賛していることです。
ある利用者は「箱根あたりなら倍は取りそう。部屋は広くて綺麗。特に源泉かけ流しの温泉は気持ち良かった」と評価し、4回目のリピーターは「温泉はとにかく抜群。色々な温泉地へ足を運んでおりますが、私個人では断トツです。贅沢にコンコンと湧き出るキレイな温泉は湯あたりも優しく、9歳の息子も『何回も入りたいね』と大のお気に入り」との感想を寄せています。
湯量の豊富さについても「毎分ドラム缶5本の豊富な湧出量を誇る。男女ともに内湯に2つの湯船と露天風呂があり、6つの湯船すべて100%掛け流し」との詳細な評価があり、この豊富な温泉資源こそが長栄館の最大の強みであることが明確に示されています。
サービスとおもてなしへの評価
温泉の質以外の面でも、長栄館は多くの良好な評価を得ていました。オールインクルーシブシステムについては「お酒代を気にすることなく飲めたのがとても良かった。特にお風呂上がりの生ビールは最高」との評価や、「日本酒やワインは自動販売機風でボタンを押すと御猪口一杯分の量が出てくるので色々と楽しめた」といった具体的な評価が寄せられています。
スタッフのサービスについても「リピーターと思われる他のお客様ご家族とフレンドリーにスタッフの方が会話されていたのも好印象」との評価があり、温かいおもてなしの精神が根付いていたことがうかがえます。
設備と立地の評価
建物や設備については「館内も清潔感があり、お風呂も広くきれい」、「会社の忘年会でお邪魔しました。館内も清潔感があり、お風呂も広くきれいでした。今度は家族で泊まりに行きたいです」といった評価が見られます。
一方で、一部の利用者からは「建物は古く感じますが館内はキレイです。何より温泉の質が良いです」との指摘もあり、建物の老朽化が課題として認識されていたことも確認できます。これは今回のリニューアル工事において重点的に改善される部分と考えられるのです。
地方温泉旅館再生の成功事例から学ぶ
黒川温泉の奇跡的復活
地方温泉旅館再生の成功事例として最も参考になるのが、熊本県の黒川温泉の復活劇です。かつては存亡の危機に瀕していた小さな温泉街が、「温泉街全体を一つの旅館に」というコンセプトのもと、競争ではなく協調の精神で見事に復活を遂げました。
黒川温泉の再生における重要なポイントは、個々の旅館が競争するのではなく、温泉街全体のブランド価値向上を目指したことです。「入湯手形」の導入により、観光客は複数の温泉に入ることができる仕組みを作り、温泉街全体での回遊性を高めたのです。
さらに注目すべきは、現在進行中の「黒川温泉一帯地域コンポストプロジェクト」のような持続可能な地域づくりへの取り組みです。旅館から出る食品残渣や温泉街の落ち葉を活用して完熟堆肥を作り、その堆肥で育てた野菜を旅館で仕入れるという循環型モデルを構築しています。
昭和レトロ温泉旅館のリニューアル成功事例
近年、昭和時代に建てられた大型温泉リゾートホテルのリニューアルが相次いで成功を収めています。別府温泉の杉乃井ホテルでは、2019年から大規模リニューアルに着手し、2023年にはフラッグホテル「宙館」をオープンさせました。
これらの成功事例に共通するのは、昭和レトロの魅力を活かしながら現代のニーズに対応したリニューアルを行っていることです。若い世代には昭和レトロが新鮮に映り、大人世代には懐かしい思い出とともに旅行を楽しめるという多世代対応の魅力創出が成功の鍵となっているのです。
プロジェクトの良い点とメリット
温泉資源の圧倒的な優位性というメリット
長栄館再生プロジェクトの最大の良い点は、何といってもその温泉資源の圧倒的な優位性です。毎分1,000リットル以上という全国屈指の湯量は、他の温泉地では得難い競争優位性となります。特に源泉100%かけ流しを維持できるこの豊富な湯量は、現代の温泉愛好家にとって非常に価値の高い資産といえるでしょう。
pH8.3の弱アルカリ性単純硫化水素泉という泉質は、美肌効果が高く「美人の湯」として女性客からの評価も極めて高いのです。無加水、無加温、無ろ過、無循環という「4つの無」を実現できる温泉は、国内でも1%程度と言われており、この希少性こそが長栄館の最大のメリットとなります。
立地とアクセスの利点
鶯宿温泉の立地も大きなおすすめポイントです。盛岡駅から車で45分、盛岡ICから25分というアクセスの良さは、首都圏や仙台圏からの集客において重要な要素となります。
特に新幹線を利用すれば、東京から約2時間20分で雫石駅に到着でき、そこから車で15分という立地は、週末旅行やショートトリップには非常に適しています。花巻空港からも約50分という距離にあり、航空便を利用した遠方からの観光客にとってもアクセスしやすい位置にあるのです。
経験豊富な企業連合による運営という利点
NBIホールディングスとSMFLみらいパートナーズという経験豊富な企業連合による運営体制も、このプロジェクトの重要な良い点です。NBIホールディングスは「MACHIづくり共創会社」として地方創生に特化した投資を行っており、静岡県の「伊豆 花のおもてなし南楽」など他の旅館再生プロジェクトでも実績を積んでいます。
SMFLみらいパートナーズは小樽旅亭蔵群の再生プロジェクトで実績を示しており、旅館運営のノウハウと資金力を兼ね備えた信頼できるパートナーといえます。三井住友フィナンシャルグループの安定した基盤を背景とした資金力は、長期的な視点での旅館運営には欠かせない要素です。
地域全体の活性化への貢献
このプロジェクトのもう一つのメリットは、単一の旅館再生にとどまらず、鶯宿温泉エリア全体の活性化を目指している点です。黒川温泉の成功事例が示すように、温泉街全体のブランド価値向上こそが持続可能な地域活性化の鍵となります。
雫石町では既に「鶯宿温泉スポーツ拠点エリア活性化事業」などの地域振興策も進められており、長栄館の再生がこれらの取り組みと相乗効果を生むことが期待されます。
プロジェクトの悪い点とデメリット
高額な初期投資という欠点
一方で、このプロジェクトの悪い点として指摘せざるを得ないのは、高額な初期投資の必要性です。長栄館は約28億7,400万円の負債を抱えて破産した経緯があり、建物の老朽化も進んでいることから、大規模なリニューアル工事には相当な費用がかかると予想されます。
2026年7月の開業を目指してロビーやエントランス、大浴場や客室に至るまで大規模な改装工事を行うとされていますが、この初期投資が回収できるまでには相当な時間を要する可能性があります。これはデメリットとして慎重に検討すべき要素といえるでしょう。
地方温泉地の構造的課題という欠点
鶯宿温泉を取り巻く環境にも悪い点が存在します。日本全国の地方温泉地が抱える共通の課題である人口減少、高齢化、後継者不足は、鶯宿温泉エリアでも例外ではありません。
雫石町の人口は約17,000人と限られており、地元マーケットだけでは持続的な集客は困難です。また、コロナ禍によって温泉旅館業界全体が大きなダメージを受けており、市場環境の回復にはまだ時間がかかると予想されます。
競合他社との差別化の難しさ
鶯宿温泉エリアには既に「ホテル森の風鶯宿」「雫石プリンスホテル」「竹あかりの宿 加賀助」など、複数の宿泊施設が営業しています。これらの既存施設との差別化を図ることは容易ではなく、単に施設をリニューアルするだけでは十分な競争優位性を確保できない可能性があります。
特に「竹あかりの宿 加賀助」は2024年9月にリニューアルオープンしたばかりで、オールインクルーシブシステムを導入するなど、長栄館と似たコンセプトの運営を行っています。このような競合状況は、長栄館の再生においておすすめしない要素として注意深く検討すべき点です。
おすすめしたい方とおすすめできない方
長栄館再生プロジェクトをおすすめしたい方
このプロジェクトをおすすめしたいのは、本格的な温泉体験を求める温泉愛好家の方々です。毎分1,000リットル以上の豊富な湯量による源泉100%かけ流しという贅沢な温泉体験は、一般的な温泉施設では味わえない特別なものとなるでしょう。
また、首都圏からアクセスの良い東北地方で、質の高い温泉旅館でのんびりと過ごしたいと考えている方にもおすすめです。新幹線と車を組み合わせれば東京から半日程度でアクセスでき、週末の小旅行には最適な立地といえます。
さらに、地方創生や地域活性化に関心のある方、持続可能な観光のあり方に興味のある方にとっても、このプロジェクトは注目に値する取り組みです。民間企業による地方温泉旅館再生の新しいモデルケースとして、その成果は広く社会に影響を与える可能性があります。
おすすめできない方
一方で、このプロジェクトをおすすめできないのは、開業直後の不安定な運営状況を避けたいと考える方です。2026年7月の開業予定となっているため、当初は施設運営やサービス面で多少の不備が生じる可能性があります。
また、都市型のエンターテイメントや多様な飲食オプションを求める方にとっては、地方の温泉旅館という立地上の制約から、期待に応えられない可能性があります。鶯宿温泉エリアは自然豊かな環境にある一方で、都市部のような多様な娯楽施設は限られているからです。
価格重視で温泉旅行を考えている方にとっても、大規模リニューアル後の長栄館は料金設定が高めになる可能性があり、コストパフォーマンスの面でおすすめしない場合があります。
独自の視点による考察と将来展望
トラベルライター”TAKA”として、このプロジェクトを総合的に評価すると、成功の可能性は十分に高いと判断します。その根拠として、以下の独自の視点からの分析を提示したいと思います。
「温泉資源×企業力×地域性」の三位一体モデル
長栄館再生プロジェクトの真の価値は、優れた温泉資源と経験豊富な企業グループ、そして地域の特性を活かした「三位一体」のアプローチにあると考えます。毎分1,000リットル以上という圧倒的な湯量は、他では真似のできない競争優位性であり、これを三井住友フィナンシャルグループの資金力と運営ノウハウで最大限活用することで、単なる施設リニューアルを超えた価値創造が可能になるでしょう。
特に注目すべきは、SMFLみらいパートナーズの「パートナー支援型事業投資」というアプローチです。これは単純な買収・再生ではなく、地域の関係者と連携しながら持続可能な事業モデルを構築する手法であり、黒川温泉の成功事例で示された「協調」の精神と通じるものがあります。
インバウンド回復期における戦略的タイミング
2026年7月の開業タイミングは、インバウンド観光が本格回復する時期と重なる可能性が高く、戦略的に非常に優れた判断といえるでしょう。特に、本格的な日本の温泉文化を体験したい外国人観光客にとって、源泉100%かけ流しという「本物の温泉」は極めて魅力的な要素となります。
岩手県という立地も、従来の「ゴールデンルート」とは異なる新しい日本体験を求める訪日外国人観光客には新鮮な魅力を提供できると考えられます。盛岡駅からのアクセスの良さは、東京・仙台からの日帰り圏内という国内観光客だけでなく、東北地方周遊を楽しむ外国人観光客にとっても利便性の高い立地となるでしょう。
デジタル化時代における「本物の価値」の重要性
現代の旅行業界では、SNSでの写真映えや話題性が重視される傾向がありますが、長栄館が持つ「源泉100%かけ流し」という本物の価値は、一時的なトレンドを超えた普遍的な魅力を持っています。デジタル疲れやコロナ禍の影響で、人々が「本物の癒し」を求める傾向は今後も継続すると予想され、長栄館の価値提案はこのニーズに完全に合致しています。
また、持続可能な観光への関心の高まりも追い風となるでしょう。地域資源を活用し、地域経済に貢献する地方創生型の観光事業は、社会的意義と事業性を両立させた新しい観光のあり方として注目されています。
課題克服のための提案
一方で、成功のためには以下の課題への対応が重要になると考えます。まず、地域内での連携強化です。黒川温泉の成功事例が示すように、単一施設の成功だけでなく、鶯宿温泉エリア全体のブランド価値向上が持続可能な発展の鍵となります。
次に、人材確保の課題です。地方の温泉旅館において質の高いサービスを提供するためには、適切な人材の確保と育成が不可欠ですが、地方の労働市場の制約を考慮した創意工夫が必要になるでしょう。
最後に、差別化戦略の明確化です。既存の競合施設との差別化を図るため、長栄館独自の価値提案を明確にし、それを効果的に市場に伝える必要があります。
最終的な展望
長栄館再生プロジェクトは、日本の地方創生における新しいモデルケースとして、大きな意義を持つ取り組みだと確信しています。優れた自然資源と民間企業の経営力を組み合わせることで、持続可能な地域活性化を実現する可能性を秘めており、成功すれば全国の地方温泉地にとって希望の光となるでしょう。
2026年7月のリニューアル開業に向けて、関係者の皆様の努力が実を結び、長栄館が再び東北を代表する名門温泉旅館として輝きを取り戻すことを、トラベルライター”TAKA”として心から期待しています。そして、この挑戦が成功することで、日本全国の地方温泉地に新たな希望と可能性をもたらすことを願っています。