星野リゾートが掲げる「リカバリーツーリズム」──猛暑疲労を癒やす新しい旅の選択肢
2025年9月19日、星野リゾートは夏の酷暑で疲弊した心身を回復させる旅の在り方として「リカバリーツーリズム」を発表しました。観光やレジャー中心の従来型旅行と異なり、旅先での休養・養生を第一に据える点が特徴です。プレスリリースでは、気温35℃以上の猛暑日が昨年を大幅に上回ったことや「秋バテ」の増加など、提案の背景が詳細に示されています。公式リリースによれば、全国73施設がブランドごとに個性豊かな回復プログラムを整備し、旅を通じたセルフケアを提案しています。
同社はこれまでもマイクロツーリズムやワーケーションを提唱してきましたが、今回は「心身の不調からのリカバリー」を明示的に目的化。温泉・森林浴・発酵食・呼吸法といった伝統的な養生文化を現代の滞在型リゾートに組み込み、都市部から離れた地域資源の活用とヘルスツーリズム需要の拡大を両立させる狙いがあります。
背景:猛暑と「秋バテ」が引き起こす回復ニーズ
2025年の夏は観測史上屈指の高温となり、気象庁によると猛暑日の発生回数が全国的に増加しました。昼夜の寒暖差が大きくなる秋口には自律神経の乱れや食欲不振などが起こりやすく、「秋バテ」と呼ばれる不調が顕著になります。同リリースでは、こうした時季特有の倦怠感を“旅という非日常の環境で整える”ことに価値があると説明。医師監修のプログラムや地域の自然環境を組み合わせることで、短期間でも質の高い回復体験を提供するとしています。
また、コロナ禍以降に高まったウェルネス志向と、自宅近郊では得がたい深いリラクゼーション需要が合流し、回復特化型旅行への関心が急速に拡大。星野リゾートは「今こそ養生目的の旅を提案する好機」と判断し、各施設で一斉に新プランを投入しました。
コンセプトの核──リカバリーを最優先する五つの視点
- 深い睡眠:医師監修の入浴法や特製ハーブティーで寝つきをサポート
- 整った呼吸:早朝ストレッチや森林浴で自律神経を安定化
- 良質な食事:発酵食や旬の食材で腸内環境を整備
- 穏やかな運動:気候に合わせたウォーク&ストレッチで血流促進
- 感性の刺激:紅葉鑑賞や星空観察でメンタルをリフレッシュ
これら五つの要素を施設ごとに最適化し、短い滞在でも“生活リズムの再調整”が完結するよう設計されている点が、通常のリゾートプランとの最大の違いです。
星のや軽井沢:「秋の健幸滞在」で紅葉と睡眠を味わう
標高約950mの高原に立つ星のや軽井沢では、紅葉散策と睡眠改善を組み合わせた2泊3日の医師監修プログラムを実施中です。「紅葉まんだら並べ」で色彩に集中しリラックスを促すほか、東洋医学の鍼灸ボディケアで全身を整えます。公式サイト施設情報には、チェックイン前のオンライン問診や滞在後30日のサポートメールなど、旅後のフォロー体制も明記されています。
温泉街発祥の歴史を活かし、客室露天風呂には自家源泉を引湯。入浴後に体温が下がるタイミングで就寝する“バスタイムリセット”を推奨し、深い眠りを誘導する点がユニークです。
星のや富士:森のストレッチと栗のスイーツで自律神経を整える
富士北麓に位置するグランピングリゾート星のや富士は、標高約1,000mの澄んだ空気を活かした「秋のグランピング滞在」を提供。布ハンモックに身を預ける「森の空中ストレッチ」、動物の足跡を追うディスカバーウォークなど、軽負荷の運動で気分転換を図ります。公式ページによれば、夜は焚き火で温まりながら栗のクレームブリュレを味わい、五感を刺激してリラックスホルモンの分泌を促進。標高差による適度な寒暖刺激が睡眠の質向上にも寄与します。
星のや竹富島:離島時間で「ぐっすりにーぶい滞在」
八重山諸島の星のや竹富島では、島のゆったり流れる時間を利用した2泊3日の睡眠改善プランを実施。浜辺で朝陽を浴びる「てぃんぬ深呼吸」や、客室チェアモックで昼寝を推奨するなど、自然光を活かしたサーカディアンリズム調整が特徴です。施設詳細によると、朝食には豆腐と島野菜の鍋を提供し、胃腸を温めて夜の快眠につなげます。
夜は星空観察と波音のホワイトノイズが“副交感神経優勢”の状態を維持。都会では得がたい静寂を強みに、深い眠りに導きます。
星のや沖縄:発酵文化で腸から整える「琉球発酵滞在」
読谷村に建つ星のや沖縄は、黒麹やもろみ酢など沖縄独自の発酵食を軸に据えたウェルネスプログラムを展開。公式サイトによれば、腸内環境を整える食事とビーチヨガ、月夜の深呼吸を組み合わせ、夏の内臓疲労回復を狙います。発酵食によるクエン酸・アミノ酸補給は、筋疲労回復や自律神経安定に効果が期待され、医学的エビデンスに基づくメニュー設計が高評価を得ています。
星のや東京:都心で完結する1泊2日の養生体験
大手町の星のや東京は、時間が取りづらいビジネスパーソン向けに1泊2日のリカバリープランを用意。屋上で夜景を眺めながら剣術稽古を行う「天空月光稽古」が目玉で、暗闇での動作により集中力を高めつつ適度な有酸素運動を実現します。公式案内では、地下1,500mから汲み上げた天然温泉「大手町温泉」を入浴の〆に推奨し、筋弛緩と体温リズム調整で深い睡眠へ導くと説明されています。
24時間対応の湯上がりラウンジや就寝前ストレッチ指導など、短期滞在でも“整う”仕組みが多層的に組み込まれています。
利用方法と予約のポイント
- プランはすべて公式Webサイトまたは電話で予約可能。宿泊検索で「リカバリーツーリズム」特設タグを選択。
- 医師監修プログラムは事前問診が必須。オンラインフォーム提出後、担当スタッフから最適プランが提案されます。
- 滞在中のアクティビティは定員制が多く、予約時に時間枠を選択するとスムーズ。キャンセル規定は通常宿泊と同じです。
- 各施設ともチェックアウト後30日間、メールで生活習慣アドバイスを受け取るアフターサポートを導入。
現時点で追加料金はプログラム込みのパッケージ価格に含まれ、マッサージやスパのオプションのみ別途精算となります。
総括:観光とウェルネスの融合がもたらす新潮流
星野リゾートの「リカバリーツーリズム」は、自然・文化資源を活かした癒やし体験を提供しつつ、宿泊需要の閑散期を底上げする効果も期待されています。猛暑の影響で健康不安が高まる近年、旅を“治す手段”として位置づける試みは、他の宿泊事業者や自治体にも波及する可能性があります。医療・観光が連携することで、滞在価値を高め地域経済に持続的な恩恵をもたらすモデルケースとなるでしょう。
今回紹介した各プログラムは2025年秋以降も順次アップデートが予定されており、季節や地域特性に応じた回復メニューが拡充される見込みです。旅先で深く休み、明日への活力を取り戻す──そんな新しい旅のかたちが、私たちの日常をより豊かにしてくれそうです。