ホテルや旅館などで使われる業界用語「コマ」とは?HOTTELの記者がわかりやすく解説

旅行系WEBメディア「HOTTEL」に記事を書くトラベルライター”TAKA”です。旅についての疑問や噂について真相をつきとめわかりやすく解説します。今回は、ホテルや旅館の業界で使われている「コマ」という専門用語について、その意味や背景、メリット・デメリット、そして現代の宿泊業界におけるこの言葉の位置づけまで、詳しくご紹介していきたいと思います。

「コマ」とは何か?業界用語の意味を解説

ホテルや旅館の業界で使われる「コマ」という言葉は、「小間客(こまきゃく)」を略した業界用語で、個人客や少人数のお客様を指す表現のようです。この言葉の語源は「小間切れ」から派生したものだと言われています。

具体的には、団体旅行ではなく個人や家族、友人同士など、数名程度の小規模なグループで宿泊される方々のことを指しているようです。旅館業界では、団体客のことを「タマ(玉)」と呼ぶこともあり、「団体(タマ)が入らないので、コマで埋める」というように使われることがあったと言われています。

ホテル業界では、個人旅行客を表す専門用語として「FIT(エフアイティー)」という言葉も使われています。これは「Free Independent Traveler(個人旅行者)」の略で、パッケージ旅行や団体旅行を利用せず、個人で手配して旅行する方々を指す言葉のようです。一方、団体旅行客は「GIT(ジーアイティー)」と呼ばれ、「Group Inclusive Tour(団体包括旅行)」の略として使われているようです。

「コマ」という言葉の歴史的背景

この「コマ」という業界用語は、旅館業界において比較的古くから使われてきた言葉のようです。特に、団体旅行が全盛期だった昭和の時代から平成初期にかけて、よく使われていた表現だと言われています。

当時の旅館業界では、団体旅行客が主要な収益源でした。修学旅行、社員旅行、慰安旅行などの大型団体が一度に宿泊することで、効率的に客室を埋めることができ、一度に多くの売上を確保できたのです。そのような時代背景の中で、個人客は団体客と比較して「小間切れ」のような存在として捉えられ、「コマ」という呼び方が定着していったようです。

ある業界関係者の話によれば、「もう二度と戻ることのない”古きよき時代”を知る営業マンがよく使う」言葉だとも言われています。つまり、団体旅行が主流だった時代を経験した、ベテランの旅館関係者の間で特に使われてきた業界用語だということのようです。

なぜ「コマ」と呼ばれるのか?旅館側の視点

では、なぜ個人客が「コマ」と呼ばれるようになったのでしょうか。これには、旅館経営における効率性や運営方法が深く関係しているようです。

団体客の場合、一度に多くの客室を埋めることができ、食事の提供も一斉に行えるため、スタッフの配置やオペレーションが効率的になると言われています。食事の調理も大量に一度に作ることができ、配膳も同じタイミングで行えるため、人件費の面でも効率が良いとされています。

一方で個人客の場合、チェックイン時間もバラバラで、食事の時間も異なることが多く、少人数ずつの対応が必要になるため、スタッフの配置や調理場の運営において、団体客と比べると効率が悪くなりがちだったようです。

さらに、かつての旅館では「心付け」という慣習があり、団体客の場合は幹事や責任者から比較的まとまった額をいただけることもあったようですが、個人客の場合は心付けを置かない方も多く、また客室の冷蔵庫に入っている有料のドリンクを利用する率も低い傾向にあったと言われています。こうした背景から、一部の旅館では個人客を敬遠する雰囲気もあったようです。

このように、旅館の運営効率や収益性の観点から、個人客は「小間切れ」のような存在として捉えられ、「コマ」という言葉で呼ばれるようになったのだと考えられます。

時代の変化と「コマ」の位置づけの変化

しかし、時代とともに旅行のスタイルは大きく変化してきました。平成から令和にかけて、団体旅行は減少し、個人旅行が主流になってきたのです。

観光庁の統計によれば、現在では宿泊予約の約45%がOTA(オンライン・トラベル・エージェント)経由となっており、インターネットを通じて個人で旅行を手配する方が圧倒的に増えているようです。特に新型コロナウイルス感染症の影響により、この傾向はさらに加速したと言われています。

ある旅館の方の話では、「団体客が消滅して個人客のみとなった。私どもは団体客が主な顧客であったため、売り上げが激減した」という声もあるようです。このように、時代の変化により、旅館業界は団体客中心の運営から個人客中心の運営へとシフトせざるを得ない状況になっているようです。

こうした状況の中で、かつては「小間切れ」として扱われていた個人客が、今や旅館経営の主要な顧客層となっており、「コマ」という言葉が持っていたネガティブなニュアンスも薄れてきているのかもしれません。

個人客(コマ)のメリット:旅館経営における利点

それでは、現代の旅館経営において、個人客(コマ)を受け入れることには、どのようなメリットがあるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

(1)柔軟な料金設定が可能

個人客の場合、旅館側は宿泊プランや料金設定を柔軟に変更できるという利点があるようです。団体客の場合は旅行会社との契約料金が固定されていることが多いですが、個人客の場合は季節やイベント、需要に応じて料金を調整できるため、収益性を高めることができると言われています。

特に、自社ホームページからの直接予約を増やすことで、OTA手数料(通常10~20%程度)を削減でき、その分を利益として確保できるというメリットもあるようです。

(2)リピーター獲得のチャンス

個人客の場合、お客様一人ひとりと直接コミュニケーションを取ることができ、顧客情報を蓄積してパーソナライズされたサービスを提供することで、リピーターとして育てやすいという利点があるようです。

ある温泉旅館では、個人客の好みやアレルギー情報、記念日などをCRM(顧客関係管理)システムで管理し、次回の宿泊時に反映することで、「この宿は私のことを覚えてくれている」という特別感を演出し、高いリピート率を実現しているという事例もあるようです。

(3)口コミ評価の向上

個人客は、宿泊後にインターネット上で口コミを投稿する傾向が強いと言われています。良いサービスを提供できれば、その口コミが新たな顧客を呼び込むきっかけになり、集客力の向上につながるというメリットがあるようです。

特に、OTAサイトでの高評価は、検索結果の上位表示にもつながり、さらなる予約増加の好循環を生み出すと言われています。

(4)閑散期の稼働率向上

団体客は主に週末や繁忙期に集中する傾向がありますが、個人客は平日や閑散期でも一定の需要があるため、年間を通じた稼働率の安定化に貢献できるという利点があるようです。

平日の空室を埋めることで、固定費を回収し、経営の安定化を図ることができると言われています。

(5)きめ細やかなサービスによる客単価アップ

個人客に対しては、一人ひとりのニーズに合わせたきめ細やかなサービスを提供しやすく、その結果として食事のグレードアップや体験プラン、記念日プランなどの追加サービスを購入していただける可能性が高まるというメリットがあるようです。

小規模旅館であれば、アットホームな雰囲気の中で、お客様との距離を縮め、「ここでしか味わえない特別な体験」を提供することで、客単価を自然に向上させることができると言われています。

おすすめしたい方:個人客(コマ)の受け入れが向いている旅館

以上のようなメリットから、個人客(コマ)の受け入れは特に以下のような旅館におすすめできると考えられます。

  • 客室数が少なく、小規模でアットホームな雰囲気を大切にしている旅館
  • 地域の食材や文化を活かした、こだわりの料理やサービスを提供している旅館
  • 顧客との長期的な関係を重視し、リピーターを大切にしている旅館
  • インターネット予約システムやCRMツールを活用して、効率的な運営を目指している旅館

個人客(コマ)のデメリット:旅館経営における課題

一方で、個人客(コマ)を受け入れることには、いくつかのデメリットや課題も存在するようです。

(1)オペレーションの複雑化

個人客の場合、チェックイン時間がバラバラで、食事の時間も一定ではないため、フロント業務や調理場のオペレーションが複雑になると言われています。

団体客のように一斉にチェックインし、同じ時間に食事を提供できるわけではないため、スタッフの配置やシフトの組み方が難しくなり、人件費が増加する可能性があるようです。

(2)予約管理の手間

個人客の予約は、OTA、自社ホームページ、電話など、複数の経路から入ってくるため、予約管理が煩雑になりやすいというデメリットがあるようです。

特に、複数のOTAに掲載している場合、在庫管理を適切に行わないとダブルブッキングのリスクが高まるため、サイトコントローラーなどのシステム導入が必要になると言われています。

(3)キャンセルリスク

個人客の場合、団体客と比べて予約のキャンセル率が高い傾向にあると言われています。特に、直前のキャンセルや無断キャンセル(ノーショー)が発生すると、他の予約を受け付けられなかった分の機会損失が生じるリスクがあるようです。

(4)一度の売上が小さい

団体客の場合は一度に大きな売上を確保できますが、個人客の場合は一組あたりの売上が小さいため、同じ売上を達成するためには、より多くの予約を獲得する必要があるというデメリットがあるようです。

(5)対応の個別化によるスタッフの負担

個人客に対しては、一人ひとりのニーズに合わせた対応が求められるため、スタッフの負担が増加する可能性があるようです。

特に、アレルギー対応や記念日のサプライズ、細かいリクエストなど、きめ細やかなサービスを提供するためには、スタッフの教育やモチベーション管理が重要になると言われています。

おすすめできない方:個人客(コマ)の受け入れが難しい旅館

以上のようなデメリットから、個人客(コマ)の受け入れが難しいのは、以下のような旅館だと考えられます。

  • 大型の施設で、大量の団体客を一度に受け入れることに特化した設備や体制を整えている旅館
  • スタッフの人数が限られており、個別対応に十分なリソースを割けない旅館
  • インターネット予約システムやCRMツールなどのITインフラが整っていない旅館
  • 団体向けの宴会場や大型バスの駐車場など、団体客向けの設備が充実している旅館

現代の旅館が直面する課題と「コマ」への対応

現代の旅館業界では、団体客から個人客へのシフトが避けられない状況となっており、多くの旅館がこの変化に対応するために様々な取り組みを行っているようです。

ある岡山県の旅館では、日本生産性本部のコンサルティングを受けて、団体客中心のオペレーションから個人客中心のオペレーションへと転換を図ったという事例があるようです。この旅館では、三世代家族というターゲットに注目し、おじいさま、おばあさま、小さなお子様それぞれに対応する「おもてなしシナリオ」を体系化することで、個人客向けのサービスを強化し、売上の増加を実現したと言われています。

また、別の事例では、マルチタスク化を進めることで、少人数のスタッフでも効率的に個人客に対応できる体制を構築している旅館もあるようです。フロント係が食事の配膳も行ったり、清掃係が簡単な接客も担当したりすることで、人的リソースを有効活用し、個人客一人ひとりに丁寧なサービスを提供しているという話もあります。

さらに、ITシステムの導入も重要な対応策の一つのようです。PMS(Property Management System)と呼ばれる宿泊施設管理システムや、サイトコントローラーを導入することで、複数のOTAからの予約を一元管理し、ダブルブッキングを防ぎながら効率的に運営できるようになると言われています。

「コマ」という言葉の現代的な意味

かつては「小間切れ」というネガティブなニュアンスを含んでいた「コマ」という言葉ですが、現代ではその意味合いも変化してきているようです。

旅行形態の変化により、個人客が旅館経営の中心となった今、「コマ」という言葉を使う機会も減ってきているのかもしれません。むしろ、個人客一人ひとりを大切にし、パーソナライズされたサービスを提供することが、旅館の競争力を高める重要な要素となっているようです。

一部の業界関係者によれば、「コマ」という言葉は今でも現場で使われることがあるものの、その意味合いは「個人のお客様」というニュートラルな表現に近づいているようです。かつてのような「効率が悪い客」という含みはなくなり、むしろ「大切にすべきお客様」という認識に変わってきているのだと考えられます。

Q&A:「コマ」に関するよくある質問

Q1:「コマ」という言葉は今でも使われていますか?

A:業界によっては今でも使われているようですが、使用頻度は減ってきているようです。特に、団体旅行が全盛期だった時代を経験したベテランの方々の間では使われることがあるものの、若い世代のスタッフは「個人客」や「FIT」といった言葉を使うことが多いようです。

Q2:お客様として「コマ」と呼ばれていることを知ったら、気分が悪くなりませんか?

A:確かに、言葉の成り立ちを知ると良い気持ちはしないかもしれませんが、これはあくまで業界内部で使われる専門用語であり、お客様の前で使われることはほとんどないようです。また、現代ではその意味合いもニュートラルなものに変化してきているため、過度に気にする必要はないと考えられます。

Q3:個人で旅館に泊まると、団体客と比べてサービスが劣りますか?

A:そのようなことはありません。むしろ現代の旅館では、個人客一人ひとりに対してきめ細やかなサービスを提供することで、差別化を図っているところが多いようです。お客様の好みや記念日を記録し、次回の宿泊時に反映するなど、個人客ならではの特別な体験を提供している旅館も増えているようです。

Q4:旅館を選ぶとき、個人客を大切にしているかどうかは、どうやって判断すればいいですか?

A:いくつかのポイントがあると考えられます。まず、公式ホームページが充実しており、個人向けの様々なプランが用意されているかどうかを確認すると良いでしょう。また、口コミサイトでの評価を見て、個人客からの評価が高いかどうかもチェックポイントになると思います。さらに、問い合わせをした際の対応が丁寧で、個別のリクエストに柔軟に対応してくれるかどうかも重要な判断材料になると考えられます。

Q5:「コマ」以外にも旅館業界の専門用語はありますか?

A:はい、たくさんあるようです。例えば、「ノーショー」(予約したのに来ないお客様)、「OTA」(オンライン旅行予約サイト)、「PMS」(宿泊施設管理システム)などが代表的なようです。また、旅館では「心付け」(仲居さんへのチップ)、「ゲタハキ」(旅行代理店が販売する宿泊料金と宿泊施設の提供価格の差額)といった業界用語もあるようです。

トラベルライターTAKAの考察:「コマ」という言葉が映し出す旅館業界の変遷

ここまで、ホテルや旅館の業界用語「コマ」について詳しく見てきましたが、この言葉の変遷を辿ることで、日本の旅館業界が歩んできた道のりが浮かび上がってくるように感じます。

高度経済成長期から平成初期にかけて、日本の旅館業界は団体旅行という大きな需要に支えられていました。社員旅行や修学旅行、町内会の慰安旅行など、大人数で一斉に移動し、同じ時間に食事をし、同じタイミングでお風呂に入るという、いわば「集団行動型」の旅行スタイルが主流だったのです。

この時代の旅館にとって、団体客は非常にありがたい存在でした。一度の予約で多くの客室を埋めることができ、効率的に運営できるだけでなく、旅行会社との安定した取引関係を築くこともできたからです。そのような背景の中で、個人でひっそりと訪れるお客様は、どうしても「小間切れ」のような存在として捉えられがちだったのかもしれません。

しかし、バブル経済の崩壊、就業形態の多様化、インターネットの普及、そして新型コロナウイルス感染症の影響など、様々な社会的要因により、旅行のスタイルは大きく変化しました。大人数で同じ行動をする団体旅行は減少し、個人や家族、少人数のグループで自由に旅程を組む個人旅行が主流になったのです。

この変化は、旅館業界にとって大きな転換点となりました。かつて主力だった団体客が減少し、「コマ」として扱っていた個人客こそが、今や経営を支える中心的な存在になったのです。旅館は、団体客中心のオペレーションから、個人客一人ひとりに寄り添うサービスへとシフトせざるを得なくなりました。

私が取材を重ねる中で感じるのは、この変化は決して後ろ向きなものではなく、旅館業界にとって新たな可能性を開くチャンスでもあるということです。個人客一人ひとりと向き合うことで、お客様の好みや記念日を記憶し、次回の宿泊時に反映することができます。季節の食材を使った特別料理を提供したり、地域の文化や歴史を丁寧に紹介したり、お客様だけの特別な時間を演出することができるのです。

これは、大型ホテルチェーンにはなかなか真似できない、地域に根差した小規模旅館ならではの強みだと言えるでしょう。アットホームな雰囲気の中で、お客様との距離を縮め、「ここでしか味わえない体験」を提供することで、リピーターを育て、口コミによる新たな顧客を獲得していくことができるのです。

もちろん、個人客中心の運営には課題もあります。オペレーションの複雑化、予約管理の煩雑さ、きめ細やかなサービスを提供するためのスタッフの負担増加など、乗り越えなければならないハードルは少なくありません。しかし、ITシステムの導入やマルチタスク化、スタッフ教育の充実などによって、これらの課題は解決可能だと考えられます。

「コマ」という言葉は、かつては「効率が悪い」というネガティブな意味合いを持っていたかもしれません。しかし、時代の変化とともに、その意味は確実に変わってきているように感じます。今や、個人客は「大切にすべきお客様」であり、旅館の未来を支える存在なのです。

私は、この「コマ」という言葉の変遷を通じて、日本の旅館業界が持つ柔軟性と適応力を感じます。時代の波に翻弄されながらも、お客様一人ひとりを大切にするという本質的な価値を見失わず、新たな時代に合わせた形で「おもてなし」を進化させようとしている姿勢が、そこには見て取れるのです。

かつて「小間切れ」として扱われていた個人客が、今や旅館経営の中心となり、旅館側も一人ひとりのお客様に寄り添う姿勢を強めている。この変化こそが、日本の旅館業界が持つ「おもてなしの心」の本質なのではないでしょうか。

私たち旅行者も、旅館に泊まる際には、このような業界の背景や努力を少しでも理解し、スタッフの方々とのコミュニケーションを楽しみながら、その土地ならではの特別な時間を味わっていきたいものです。そして、良い体験をしたら、ぜひ口コミを投稿したり、リピーターとして再訪したりすることで、頑張っている旅館を応援していきたいと思います。

「コマ」という一つの業界用語から、日本の旅館業界の歩みと、これからの可能性が見えてくる。そんな気づきを、この記事を通じて皆さんと共有できたら幸いです。旅館に泊まる際の楽しみが、少しでも増えることを願っています。

人と人とのつながりを大切にし、一期一会の精神でお客様をお迎えする。それこそが、日本の旅館が持つ最大の魅力であり、「コマ」という言葉の変遷が教えてくれる、旅館業界の本質なのだと、私は考えています。

これからも、日本の旅館が個人客一人ひとりを大切にし、心のこもったおもてなしを提供し続けてくれることを、一人の旅行者として、そしてトラベルライターとして、心から期の旅館が個人客一人ひとりを大切にし、心のこもったおもてなしを提供し続けてくれることを、一人の旅行者として、そしてトラベルライターとして、心から期待しています。