ホテルや旅館などで使われる業界用語「たぬき」とは?HOTTELの記者がわかりやすく解説
旅行系WEBメディア「HOTTEL」に記事を書くトラベルライター”TAKA”です。 旅についての疑問や噂について真相をつきとめわかりやすく解説します。
今回は、ホテルや旅館で働く方々が使う独特な業界用語「たぬき」について詳しくお伝えしていきます。宿泊施設を利用される際に、もしかしたら従業員の方が「あのお客さんはたぬきです」と話しているのを耳にしたことがあるかもしれません。実はこれ、動物のたぬきとは全く関係のない、旅館やホテル業界で長年使われている隠語なのです。
「たぬき」とは何を意味するのか
結論から申し上げますと、ホテルや旅館業界で使われる「たぬき」とは、夕食なしの素泊まりでご宿泊されるお客様のことを指す業界用語と言われています。
この言葉の由来は非常にユニークで、「夕食」の「夕」という漢字がカタカナの「タ」に似ていることから生まれたのだそうです。つまり「タ・ヌキ」で「夕食抜き」→「タヌキ」というダジャレのような言葉遊びから誕生した隠語なのです。まるでなぞなぞのような発想で、日本語特有の面白さが感じられる表現と言えるでしょう。
旅館やホテルでは、通常のプランでは夕食と朝食がセットになった「一泊二食付き」が基本となっていることが多いのですが、遅い時間にチェックインされるお客様や、到着前にすでにお食事を済ませてこられたお客様、あるいは現地の飲食店で地元の料理を楽しみたいというお客様が、あえて宿の夕食を「不要」にするケースは少なくないようです。
そのような場合、誤って夕食の準備をしてしまわないよう、従業員同士で情報を共有しあう際にこの「たぬき」という言葉が使われているのです。つまり、この隠語には「お客様を動物に例えて失礼なことを言っている」という意味は全くなく、むしろ業務をスムーズに進めるための、従業員間のコミュニケーションツールとして機能しているのだと理解できます。
「たぬき」という業界用語が生まれた背景
宿泊業界には様々な隠語が存在すると言われています。たとえば、予約していないのに「予約した」と言ってやってくるお客様のことを「お化け」と呼んだり、宿泊料金を支払わずに逃げてしまう人のことを「スキッパー」と呼んだり、男女のカップルや夫婦連れの宿泊客のことを「お供え」と呼んだりといった具合です。
また、宴会場で一つの宴会が終わった後、すぐに次の宴会の準備をすることを「どんでん」と呼ぶそうです。これは歌舞伎の「どんでん返し」が語源となっており、舞台装置を大掛かりに転換するように、宴会場を短時間で劇的に作り変える様子を表現した言葉と言われています。
このように、宿泊業界では様々な隠語が業務を円滑に進めるために使われてきた歴史があるようです。「たぬき」という言葉も、そうした業界の伝統的なコミュニケーション文化の一つなのだと言えるでしょう。
特に旅館では、食事は利益を上げる重要な機会であると同時に、宿の特色を披露する貴重な場面でもあると言われています。一般的な旅館の料理原価率は15%から25%程度とされており、夕食では地場の高級食材を使ったメニューやお酒などの飲み物を提供できれば客単価を上げられるため、経営上も非常に重要な要素なのです。
そのため、夕食抜きの素泊まり客に対しては、利益の上乗せ分が期待できないという面で、旅館側としてはやや残念な気持ちもあるのかもしれません。そうした複雑な感情も込めて、「たぬき」という少しユーモラスな響きの隠語が定着したのではないかと推測されます。
素泊まり「たぬき」のメリット
では、お客様側から見た素泊まり、つまり「たぬき」プランのメリットとはどのようなものがあるのでしょうか。
宿泊費用を大幅に抑えられる
素泊まり最大の魅力は、やはり宿泊にかかる費用を大幅に削減できるという点でしょう。食事がついていない分、同じ宿でも料金がグッと安くなると言われています。たとえば、ある温泉地の旅館で「一泊二食付き」のプランが12,000円だった場合、同じ部屋を素泊まりにすると7,000円前後で泊まれることもあるそうです。
宿泊費に占める食事代は、食材のレベルにもよりますが、朝食のみで1,000円から2,000円程度、朝食・夕食付きでは3,000円から5,000円程度が平均とされています。観光やアクティビティを楽しみたい方にとって、宿泊にかかる費用を抑えられるのは大きな利点と言えるでしょう。
食事の時間に縛られない自由なスケジュール
素泊まりのもう一つの大きな利点は、食事の時間や内容に縛られることなく、自分の好きな時間に好きな場所で食事を楽しめるということです。
通常、宿の食事は時間が決まっていることが多く、朝食の時間に合わせて早起きする必要がありますし、夕食の時間までにはチェックインしなければならないというプレッシャーもあります。素泊まりであれば、そうした時間的な制約から解放され、夜遅くまで観光を楽しむことも、早朝から活動を始めることも可能になるのです。
遅めのチェックインが可能なプランも多いため、平日の仕事終わりに温泉宿へ行くことも叶いやすくなると言われています。また、チェックアウトの時間を気にせず、朝早くから観光に出かけることもできるでしょう。
地元の飲食店で好きな料理を楽しめる
素泊まりを選択することで、旅先の飲食店で自由に食事できるという楽しみも生まれます。現地のお目当ての店で食べたいという方や、地元の名物や旬の食材を自分で探して味わいたいという方にとって、素泊まりは理想的な選択肢と言えるでしょう。
テイクアウトやデリバリーを活用すれば、本格的な料理を気軽に部屋で楽しむこともできますし、コンビニやスーパーで購入した食材で簡単に済ませることも可能です。食事の選択肢が広がり、予算に応じて柔軟に対応できるのも素泊まりの魅力と言えるでしょう。
予約が取りやすい
素泊まりは、他のプランに比べて予約が取りやすいというメリットもあるようです。繁忙期の場合、食事付きのプランやサービスが充実したプランの予約が取りづらい傾向にあると言われていますが、食事の提供がないため、宿泊施設側も受け入れやすく空室が見つかりやすいのだそうです。
素泊まり「たぬき」のデメリット
一方で、素泊まりにはいくつかの注意点やデメリットも存在すると言われています。
食事を自分で確保する必要がある
素泊まりの最大のデメリットは、やはり食事を自分で手配しなければならないという点でしょう。当然ですが、食事がついていないので、自分でどうにかする必要があります。
夜遅くに到着して周辺の飲食店が閉まっていたり、早朝に出発しなければならないときなど、「ごはんどうしよう…」と困る場面が出てくることもあるようです。特に温泉地など、山の中や海沿いの立地によっては、宿泊施設の周辺に飲食店が少ない、あるいは全くないという場所もあると言われています。
また、地方の温泉街は、朝食を取れるお店がないか、あっても少ないため、朝食なしの素泊まりの場合、朝食の確保に苦労することもあるかもしれません。
外食費がかさむ可能性
宿泊費自体は安く抑えられても、外食費が意外と高くつくこともあるようです。特に高級観光地やリゾートエリアでは、外食費が思いのほか高額になることもあると言われています。食事付きプランと素泊まりプランの料金差と、実際にかかる外食費を比較検討することが大切でしょう。
宿自慢の料理が楽しめない
旅館やホテルの中には、地域の食材を使った自慢の料理を提供している施設も多いと言われています。素泊まりを選択すると、そうした宿ならではの料理体験を味わう機会を逃してしまうというのも、ある意味デメリットと言えるかもしれません。
特に料理旅館などでは、季節の食材を使った会席料理が宿の大きな魅力となっていることも多く、それを楽しめないのは少し残念な面もあるでしょう。
旅館・ホテル側から見た「たぬき」の影響
宿泊施設側の視点から見ると、素泊まり客の増加にはどのような影響があるのでしょうか。
利益面での課題
先ほども触れましたが、ホテルや旅館にとって、食事は重要な収益源の一つと言われています。特に旅館では、主に食事代で収益を稼いでいるため、素泊まり客からは利益の上乗せ分が期待できないという課題があるようです。
夕食で地場の高級食材を使ったメニューやお酒などの飲み物を提供できれば客単価を上げられますが、そのような機会が損なわれてしまうのです。一般的な宿泊プランでは、宿泊部門の利益率は60%から70%と高いと言われていますが、食事を提供することでさらなる収益機会が生まれるため、経営上は食事付きプランの方が望ましいというのが本音かもしれません。
人手不足対策としてのメリット
一方で、近年の宿泊業界では深刻な人手不足が課題となっていると言われています。特に調理人や仲居を確保できないなど、食事を提供するための人材不足に悩む施設が増えているようです。
そうした状況において、素泊まりプランを増やすことは、調理部門や配膳部門の負担を軽減し、限られた人員でも運営できるという利点があるのです。実際に、草津温泉や城崎温泉などの有名観光地では、人手不足の解決策として「素泊まり型施設」が相次いで開業していると報じられています。
地域活性化への貢献
素泊まり客が増えることで、地域の飲食店を利用する旅行者が増加し、温泉街全体の夜のにぎわい創出につながるという効果もあると言われています。従来の「一泊二食付き」のスタイルでは、宿泊客は宿の中で食事を済ませてしまうため、温泉街の飲食店には足を運ばないことが多かったようです。
しかし、素泊まりや朝食のみのプランが増えることで、宿泊客が街に繰り出し、地元の飲食店で食事を楽しむようになり、地域全体の経済活性化につながる可能性があるのです。観光庁も、このような「泊食分離」の考え方を推進しているそうです。
素泊まり「たぬき」をおすすめしたい方
それでは、どのような方に素泊まりプランがおすすめなのでしょうか。
一人旅を楽しむ方
一人旅をされる方には、素泊まりプランが特におすすめと言えるでしょう。自分のペースで旅を楽しみたい、食事の時間に縛られたくないという一人旅の魅力を最大限に活かせるのが素泊まりです。
近年は、一人旅の需要が高まっており、素泊まりプランを用意している宿も増えていると言われています。特に若年層を中心に、20代では素泊まりを選ぶ割合が全体より18.5ポイントも高いというデータもあるそうです。
遅いチェックイン・早いチェックアウトを予定している方
仕事終わりに宿泊される方や、早朝から活動を開始したい方など、チェックインが遅くなる方や早朝にチェックアウトする方にも素泊まりは適していると言えます。食事の時間を気にせずに済むため、柔軟なスケジュールが組めるのです。
地元のグルメを堪能したい方
旅先での楽しみの一つが、その土地ならではの料理を味わうことという方も多いでしょう。現地の飲食店で地元の名物や旬の食材を楽しみたいという方には、素泊まりプランが理想的です。自分で好きな店を選び、地域の食文化を存分に味わうことができます。
旅行費用を抑えたい方
とにかく旅行費用を節約したいという方にとって、素泊まりは非常に有効な選択肢と言えるでしょう。浮いた予算を観光やアクティビティ、お土産などに回すことができます。
素泊まり「たぬき」をおすすめできない方
逆に、以下のような方には、素泊まりはあまりおすすめできないかもしれません。
宿の料理を楽しみたい方
旅館やホテルの料理を楽しみにしている方には、素泊まりは不向きでしょう。特に料理自慢の旅館などでは、季節の食材を使った会席料理が宿の大きな魅力となっていることも多いため、それを味わえないのは大きな損失と言えます。
食事の手配が面倒な方
旅行中はできるだけ手間をかけたくない、食事の心配をしたくないという方には、食事付きプランの方が安心でしょう。特に、宿の周辺に飲食店が少ない立地の場合、食事の確保に苦労する可能性があります。
高齢の方やお子様連れのご家族
ご高齢の方やお子様連れのご家族など、外食が負担になる可能性がある方には、食事付きプランの方が快適かもしれません。実際に、年代別のデータでは、60代は「朝食・夕食あり」を選ぶ割合が66.8%と、全体より14.4ポイント高いそうです。
素泊まり「たぬき」に関するQ&A
Q1: 「たぬき」という言葉を使うのは失礼ではないのですか?
A: 一見すると動物に例えているようで失礼に聞こえるかもしれませんが、この言葉には差別的な意味や悪意は全くないと言われています。むしろ、日本語の面白い「言葉遊び」から生まれた、業務をスムーズに進めるための合言葉として使われているのです。誤って夕食の準備をしてしまわないよう、従業員同士で情報共有するための業界用語なのです。
Q2: 素泊まりと朝食付きプラン、どちらがお得ですか?
A: 宿泊費だけを見れば素泊まりの方が安いですが、外食費を含めたトータルコストで考える必要があります。また、朝食は地方の温泉街などでは取れるお店が少ないため、朝食付きプランの方が便利なこともあります。ご自身の旅のスタイルと予算に合わせて選ぶのが良いでしょう。
Q3: 素泊まりプランは急な予約でも取りやすいですか?
A: はい、一般的に素泊まりプランは他のプランに比べて予約が取りやすいと言われています。食事の提供がないため、宿泊施設側も受け入れやすく、繁忙期でも空室が見つかりやすい傾向にあるようです。
Q4: 素泊まりで予約した後、やはり食事もお願いしたい場合は対応してもらえますか?
A: 多くの宿泊施設では、事前に連絡すれば食事を追加できる場合があると言われています。ただし、直前の申し込みでは食材の調達や調理の準備が間に合わない可能性もあるため、できるだけ早めに宿に相談することをおすすめします。「泊食分離」のスタイルを採用している施設では、食事料金が明確に設定されているところもあるようです。
Q5: 素泊まりが増えることで、日本の旅館文化は失われてしまうのでしょうか?
A: これは難しい問題と言えます。確かに、「一泊二食付き」は日本の旅館文化の大きな特徴の一つであり、それが失われることを危惧する声もあるようです。しかし一方で、人手不足や多様化する旅行者のニーズに対応するために、素泊まりプランを増やさざるを得ない現実もあると言われています。大切なのは、旅館それぞれが自らの特色を活かしながら、時代に合わせた柔軟な対応を取っていくことではないでしょうか。
トラベルライターTAKAの考察と意見
ここまで、ホテル・旅館業界で使われる「たぬき」という言葉について、その意味やメリット・デメリットを詳しく見てきました。最後に、トラベルライターとしての私の独自の視点から、この「たぬき」という言葉と素泊まり文化について考察してみたいと思います。
まず、「たぬき」という言葉遊びから生まれた業界用語には、日本の宿泊業界が持つユーモアと工夫の精神が表れているように感じます。単に「夕食なし」と言うよりも、「たぬき」という親しみやすく覚えやすい言葉を使うことで、忙しい業務の中でも円滑なコミュニケーションが可能になるのでしょう。これは、日本の「おもてなし」文化の裏側にある、プロフェッショナルな業務遂行の姿勢を象徴しているとも言えるのではないでしょうか。
素泊まりプランの増加については、私は基本的に前向きに捉えています。確かに、日本の旅館文化において「一泊二食付き」は重要な要素ですが、時代とともに旅行者のニーズは多様化しており、それに応じた選択肢が増えることは歓迎すべきことだと考えます。
特に若い世代を中心に、自由な旅のスタイルを求める傾向が強まっているようですし、一人旅を楽しむ方も増えています。そうした方々にとって、素泊まりプランは非常に魅力的な選択肢となるでしょう。また、素泊まり客が地域の飲食店を利用することで、温泉街全体の活性化につながる可能性もあると思います。
ただし、素泊まり化が進みすぎて、料理にこだわりを持つ旅館の魅力が失われてしまうのは残念なことです。理想的なのは、宿泊施設が「一泊二食付き」「朝食のみ」「素泊まり」といった複数のプランを用意し、旅行者が自分のニーズに合わせて選べる環境が整うことではないでしょうか。
人手不足という課題については、素泊まりプランの拡充だけでなく、ITシステムの導入や外国人スタッフの雇用、労働環境の改善など、多角的なアプローチが必要だと思います。宿泊業界全体で知恵を出し合い、持続可能な運営体制を構築していくことが重要でしょう。
また、「泊食分離」という考え方は、観光庁も推進している方向性ですが、これを単なる効率化やコスト削減の手段として捉えるのではなく、地域全体の魅力を高める戦略として位置づけることが大切だと感じます。宿泊施設と地域の飲食店が協力し合い、旅行者に多様な選択肢と豊かな体験を提供できれば、それは日本の観光産業全体の発展につながるはずです。
個人的には、旅行の目的や状況に応じて、食事付きプランと素泊まりプランを使い分けるのがおすすめです。宿の料理を楽しみたいときや、ゆっくりと非日常を味わいたいときは「一泊二食付き」を選び、アクティブに観光したいときや地元のグルメを探索したいときは「素泊まり」を選ぶ、というように柔軟に対応するのが良いのではないでしょうか。
最後に、今回取り上げた「たぬき」という言葉に限らず、宿泊業界には様々な興味深い隠語や文化が存在します。旅行の際には、宿泊施設の従業員の方々の会話に少し耳を傾けてみるのも楽しいかもしれません。もちろん、プライバシーには配慮しつつ、ですが。
旅の楽しみ方は人それぞれです。「たぬき」として素泊まりで自由な旅を楽しむのも良し、豪華な食事付きプランで贅沢な時間を過ごすのも良し。大切なのは、ご自身のスタイルに合った宿泊プランを選び、充実した旅の時間を過ごすことではないでしょうか。
これからも、日本の宿泊業界が多様な旅行者のニーズに応えながら、独自の文化と魅力を発信し続けることを、一人の旅行愛好家として心から期待しています。素泊まりという選択肢が広がることで、より多くの方が気軽に旅を楽しめるようになり、日本の観光産業がさらに発展していくことを願ってやみません。









